マインドコントロール〜そのプロセス
マインドコントロールというと、なにかおどろおどろしい技術であるかのような印象をもたれていると思います。
しかし実際には「人の判断や行動に影響を与える」ことに有効な、様々な心理テクニックが複数同時に施されたものであり、特殊な「おどろおどろしい技術」が使われているわけではありません。
本稿では、カルトに勧誘されてから、組織のメンバーとして心理的に拘束されるまでのプロセスについて解説していきます。
まず、最初にマインドコントロールとは何か。その定義から解説していきます。
マインドコントロールの定義とは
社会的に問題のある組織が、その利益や目標を達成するために、本来なら自由であるべき心のありかた(判断や価値観)を操作すること
心のありかただけではなく、個人の行動をも操作されることがあること
操作のやりかたは非常にあこぎであり、非常に強い心理的拘束を加えていること
その結果、依存や搾取、虐待など重要な結果を起こしうること
心のありかたや行動が操作されていることに、本人が気づいていないこと
(立正大学教授 西田公昭先生の定義を筆者が解釈し、再構成させていただきました)
「人の心に影響を与える技術」は世の中にはたくさんあります。
その中でも特に、金銭の搾取や、メンバーへの虐待など、人権の侵害に使われている心理操作の方法が「マインドコントロール」として指弾されているのです。
マインドコントロールは本人の欲求を膨らませたもの
人にはいろいろな欲求があります。たとえば・・・
・自分を変えたい
・生きる意味を知りたい。人生に高揚感とやりがいが欲しい
・神秘的なことや、社会の矛盾を解決する方法に興味がある。
・愛されたい 居場所が欲しい。
人生がうまくいかないと感じられる時や人間関係にトラブルを抱えているとき、人は「自分を変えてみたい」と願ったり、「自分が生きる意味」を考えてみようと思います。
また若く知的好奇心に溢れているのであれば、「この世のすべてのことを明らかにできる」という誘いの言葉が魅力的に映ることもあるでしょう。
「自分を変えたい」と願うひとには「自分を変える方法がある」とカルトの教義を薦める。
「生きる意味がわからない」人には「生きる意味を教えます」とカルトの教義を薦める。
「愛されたい」と願う人には「愛してあげる」フリをする。
単純に言えばこういうことなのです。
カルトの教学は、こうした個人の欲求や苦悩を教義を信奉し実践すれば、見事に解決することができるとして提示されています。
詳しくはマインドコントロール〜カルトメンバーの心理をご覧ください。
マインドコントロールのプロセス
それでは、マインドコントロールのプロセスについて、具体的に検証していきましょう。
まずは組織に勧誘する段階です。
勧誘の段階
組織の名前や目的が秘匿されている。
誰だって宗教団体と知っていたり、社会的に問題がある団体とわかっていたら、組織のメンバーになどになったりはしません。
大学においては「趣味のサークル」や「ボランティア団体」を擬態して接近してくるのです。
非常に優しく親切に接近してくる(親和性)
勧誘目的とするターゲットに対しては非常に優しく、親切に対応します。またターゲットの悩みの相談を非常に丁寧に行います。
「自分が大切にされている」という感覚は非常な感銘をターゲットに与えます。
権威ある学術団体や、信頼しうる社会組織との連携をほのめかす。
(権威性)
ほとんどの場合、ウソなのですが、社会的にも信頼のおける学者や、政治家などとの関係をほのめかし、ターゲットを信頼させます。
「これが最後のチャンス」とか「めったにない機会」などとアピールする。(稀少性)
人は誰かに親切にされると、本能的に親切にしてくれた人の気持を裏切ることがしにくくなります。
それに加えて、「信頼のおける」学者や政治家の名前が使われていると「この人の言うことなら大丈夫」と安心してしまい、警戒心が解かれてしまいます。
また、「めったにない機会だから」などと限られたチャンスであることを強調されてしまうと心理的な焦りを感じてしまい、カルトメンバーたる勧誘者の誘いにあわてて乗ってしまいます。
そもそも、勧誘者の所属する団体名や目的が伏せられたままになっているのであれば、警戒心など持ちようもありません。
この勧誘の期間中にターゲットとされた人の欲求や苦悩がリサーチされます。
「どのような欲求を持ち、どのような苦悩を抱え、今までの人生でどのような経験を積んできたのか」
こうしたターゲットの心理を複数の勧誘メンバーが分析し、教義を教え込む段階で、どのようにターゲットとされたメンバーの欲求を刺激していくかが討議されます。
教義を教え込んでいく段階
カルト組織に対しての警戒心や抵抗感がなくなったところで、集団の力を利用した「教義の教え込みの段階」へと入ります。
多くの場合、家族や友人と隔離し、カルトメンバーとしか接触できない状況にし、多数のカルトメンバーと、ターゲットとされた人だけの集団の中で、集中的な教化が行われます。
二泊三日、三泊四日くらいの合宿名目で行われることが多いです。
あらかじめ、ターゲットの欲求は分析されています。
ターゲットの個人個人の欲求に対応する形でで教義がアプローチされるのです。
同時にターゲットは極度のストレス状況下に置かれます。
それには概ね、下にあげたテクニックが使われます。
・睡眠をはく奪して、正常な判断力を奪う。
・暗闇や呼吸法を利用して、神秘体験を演出する。
・大声を出したり、全員で歌を歌ったりする。
・過去の罪やコンプレックスなどを告白させられ、それを集団で攻撃する
・人が死ぬシーンを集めたビデオなどを見せる。
・人の臨終の場面をリアルに語る。
これらの手法を使いながら、ターゲットを疲労困憊させ、それに加えて感情を大きく揺さぶり、ターゲットの罪悪感や恐怖感を拡大し、増幅させます。
睡眠をはく奪され、休むことなく断続的に活動していては、人は疲労困憊します。
疲労困憊し、罪悪感や恐怖心に打ちのめされた状態では、普段なら働いている判断力は大きく後退してしまいます。
同時に、被暗示性が非常に強まった状態となります。
それに加えて、カルト組織の先輩によって演出された集団による同調圧力が加わります。
それは異様な熱気をはらみ、ターゲットを非常に興奮させます。
このタイミングでカルト組織の教学を持ち出されると(しかもターゲットの欲求に即した形で)、あたかもそれが「正しく生きる道」に思えたり、「自分が救われる方法」と思い込んでしまうのです。
カルト組織のメンバーになることを表明すると、万雷の拍手に包まれて、多数の先輩メンバーから歯をくすぐるような祝福の言葉が投げかけられます。
これは、意図的に仕組まれた演出なのですが、新たに参入したメンバーにとっては大きな感動の体験となるようです。
組織のメンバーとして、強化する段階
ターゲットに教学を教えこみ、カルトメンバーとして迎え入れることに成功したら、、次の段階として、、ターゲットに対して新たな「囲い込みのための4つの操作」が加わります。
順に説明します。
@情報のコントロール
ネットやテレビ、新聞、書籍などの外部情報との接触を禁止したり、カルト集団メンバー以外の人たちと交流するすることを制限したりします。
また、カルトメンバー同士であっても、会話の内容を監視されたり、組織についてネガティブな意見を交換することも禁じられます。
A行動のコントロール
休む暇もなく勧誘活動に従事させられたり、資金稼ぎのための募金活動や、物売りに従事させられます。
勧誘する人数や獲得すべき資金の額にはノルマがもうけられ、それを達成できない場合には罵声を浴びたり、皆の前で叱責されるなどの「罰」をうけます。
また、メンバーにはプライバシーや自由な行動は認められません。
B感情のコントロール
勧誘や資金稼ぎなどの活動をさせながら、時に罵声を浴びせ恐怖感を持たせたり、「ノルマを達成できない自分」を責めてしまい罪の意識に苦しんだり・・・
そうかと思えば、世間の人たちのことを冷笑し、バカにして優越感に浸ってみたり・・・
「この世の終わりが近づいてきている」などと扇動され、切迫感と恐怖感の中でがむしゃらに活動してみたり・・
カルトメンバーの感情はカルト組織の操作によりジェットコースターのように上がったり下がったりを繰り返します。
C思考のコントロール
カルトメンバーは、その組織の中でしか通用しない特殊な用語を使って会話をします。
また、昇級試験などを設定し、競争を煽りながらカルトの教学を繰り返し勉強することを義務付けられています。
メンバーの一日の生活パターンをルーティン化し、単調にすることによりなにかトラブルが起きた時の意思決定能力を低減化されてしまいます。
そのうえ、なにごとかを判断するときには、常にカルト組織の上司に報告・連絡することが義務付けられてしまいます。
このような状態になってしまえばカルト組織のルールや規律から離れた行動をとったり、カルト組織の意思とは離れた思考をすることは非常に難しくなってしまいます。、
最後に
マインドコントロールにかかっている状態とは、自らがあらかじめ持っていた欲求を脚色され捻じ曲げられた状態で増幅されている状態です。
そうであるが故に、抜け出すことは容易ではありません。
このような心理状態にあるカルトメンバーとの対話はどうすればいいのでしょう。
どのようにすれば脱会へと導けるのでしょうか?
カルト宗教メンバーへの脱会説得の手法にまとめてあります。
よろしければご覧になってください。